香夜:
(空き家なの……?
それにしては荒れた様子もないけれど……。
あそこから、中の様子が見えないかな)
室内を覗きこんで息を飲んだ。
庵の中には主の姿があった。
それも、私の良く知る人物だったのだ。
香夜:
(黒羽さん……?)
そこにいたのは、花嫁行列の
護衛のひとり……黒羽さんだった。
香夜:
(駿府で別れてから、いつかまた
会えればいいのにと思っていたけれど……。
どうして、こんなところに……)
驚き声を失う私に気付かないのか、
黒羽さんは祈るように跪き、目を伏せている。
その姿がまるで絵巻のようで思わず見とれる。
香夜:
あ……っ!
実彰:
誰だ……!?
戸に手が触れてしまい、その物音で
黒羽さんはこちらを振り返った。
私の姿を認めると、切れ長の瞳を
見開いて驚いたようだった。
実彰:
何故あなたがこんな場所に……?
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